
「遺言書は何歳になったら作ればいいのだろう?」「まだ元気だから、もう少し先でもいいのでは?」「自分で書く場合には、何を書けばいいの?」遺言書について考え始めた方から、このようなご質問をいただくことがあります。結論からいえば、遺言書を作成するタイミングを、年齢だけで判断する必要はありません。大切なのは、「自分の財産を誰に残したいか」という意思を、きちんと判断して文章にできるうちに準備することです。遺言書は、一度作成したら一生そのままにしなければならないものではありません。家族関係や財産状況、自分の考えが変われば、内容を見直すこともできます。だからこそ、「まだ早い」と先延ばしにするのではなく、必要性を感じたときに一度作成し、その後の状況の変化に応じて見直していくという考え方が大切です。
遺言書を作成するのに、いつ作成しなければならないといった決まりはありません。むしろ、遺言書はご自身の意思を正確に残すための書面です。落ち着いて財産や家族関係を整理し、「誰に何を残したいのか」「なぜその人へ残したいのか」を十分に考えられるときに準備することが理想的です。特に、次のようなときは、遺言書について考える一つのタイミングになります。
独身で子どもがいない方の場合、遺言書がなければ、ご自身が希望している方とは異なる親族が相続人となることがあります。「甥や姪に残したい」「長年お世話になった人へ残したい」「特定の団体へ寄付したい」といった希望があるのであれば、遺言書を検討する重要なタイミングです。
結婚や離婚、再婚によって、家族関係は大きく変化します。特に再婚の場合には、前婚の子どもと現在の配偶者など、相続関係が複雑になることがあります。家族構成が変化したときには、「現在の自分が誰に財産を残したいのか」を改めて整理してみることが大切です。
子どもの誕生も、将来の財産承継について考えるきっかけになります。特に、子どもが複数いる・不動産がある・家業や事業用財産があるなどの場合には、将来どのように財産を承継するかを早めに考えておく意味があります。
現金は分けることが比較的容易ですが、不動産は簡単に分割できない財産です。例えば、「自宅はこの人に残したい」という明確な希望がある場合には、その意思を遺言書として残しておくことを検討する必要があります。
退職・定年は、ご自身の財産を整理するよい機会です。預貯金、退職金、不動産、有価証券、生命保険などを確認し、「自分にはどのような財産があるのか」を把握することで、遺言書の内容も考えやすくなります。終活の一環として、財産目録の作成と遺言書を一緒に検討する方法もあります。
親や兄弟姉妹、友人などの相続を経験したことで、「自分の場合はどうなるのだろう?」と考え始める方もいらっしゃいます。実際の相続手続きを経験すると、残された方がどのような手続きをしなければならないのかも見えてきます。それをきっかけに、自分の相続について整理することも有効です。
実は、これが非常に重要なタイミングです。「いつか作ろう」と思っているうちに、何年も経過してしまうことがあります。遺言書は、将来のために作成する書面だからこそ、元気で判断力が十分にあるうちに落ち着いて準備することが大切です。
いきなり遺言書を書き始める必要はありません。まず、以下の内容を整理します。
最初に、「自分が亡くなった場合、誰が相続人になるのか」を確認します。自分が財産を残したい人と法定相続人が一致しているとは限らないためです。特に独身で子どものいない方の場合には、父母などの直系尊属や兄弟姉妹、場合によっては甥・姪が相続人となることがあります。
次に、ご自身の財産を確認します。例えば、土地・建物,預貯金,株式・投資信託などの有価証券,自動車,その他の財産などです。ここで重要なのは、単に金額を把握することだけではありません。「遺言書を読んだ第三者が、その財産を特定できるか」という視点で整理することです。
相続関係と財産を整理したら、「誰に」「何を」「どのように」残したいのかを考えます。ここが遺言書作成の中心になります。例えば、「甥に自宅を残す」,「姪に預貯金を残す」,「友人に一定の財産を遺贈する」など、ご自身の希望を具体化していきます。
自筆証書遺言には、法律で定められた方式があります。現在の制度では、原則として、遺言者本人が遺言書の全文・日付・氏名を自書し、押印する必要があります。ただし、財産目録についてはパソコンで作成したものや、不動産の登記事項証明書、通帳のコピーなどを利用することができます。自書しない財産目録を添付する場合には、その目録の各ページに署名・押印が必要となります。また、作成日は具体的に特定できなければならず、「○年○月吉日」といった記載では要件を満たしません。
遺言書を作成するときに注意したいのが、「法律上の形式を満たしていること」と「希望を適切に実現できる内容になっていること」は別の問題だということです。例えば、「私の財産はすべてAさんに任せます」という文章を書いたとしても、「任せる」という言葉が具体的に何を意味するのかが問題になる可能性があります。遺言書は、ご本人が亡くなった後に使われる書面です。そのとき、ご本人が、「私が言いたかったのはこういう意味です」と説明することはできません。だからこそ、誰が読んでも、できるだけ同じ意味として理解できる文章にしておくことが重要です。
遺言書には文学的な美しい文章が必要なのではありません。必要なのは、意思が明確で、読み手によって解釈が変わりにくい文章です。例えば、
・誰についての遺言なのか
・どの財産についてなのか
・誰に取得させるのか
・その他に必要な事項はないか
というように、内容を整理して文章化していく必要があります。
せっかく遺言書を作成しても、相続が発生したときに発見されなければ、その内容を実現することが難しくなります。そのため、作成方法と一緒に保管方法も考えることが大切です。現在は、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用する方法があります。この制度では、自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことができ、紛失や改ざんなどを防止できるというメリットがあります。また、保管申請時には、遺言書保管官による形式面の外形的なチェックが行われます。ただし、遺言内容そのものについて法務局が相談に応じたり、内容の有効性を保証したりする制度ではありません。そのため、「法務局に預けるから、内容についても問題ない」とは限らない点には注意が必要です。
遺言書を作成するときには、自筆証書遺言だけでなく、公正証書遺言という選択肢もあります。自筆証書遺言は、自分で作成できるため比較的手軽です。一方、公正証書遺言は、公証人が関与して作成します。どちらが適しているかは、
・財産の内容
・家族関係
・遺言内容
・費用
・保管方法
・将来の手続き
などによって異なります。「自筆証書遺言で十分なのか」「公正証書遺言にした方がよいのか」という点も、遺言書を作成するときに検討しておきたいポイントです。
遺言書を作成した後に、
・財産を売却した
・新しい不動産を購入した
・預貯金の状況が大きく変わった
・結婚,離婚,再婚をした
・相続させたい人が変わった
・家族関係が変化した
ということもあります。そのため、遺言書は「一度作成したら終わり」ではなく、人生や財産状況の変化に応じて内容を確認することが大切です。特に、大きな財産の変動や家族関係の変化があったときには、現在の遺言書が自分の意思と一致しているか確認しましょう。
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※)制度改正について
2026年6月に遺言制度を見直す改正法が公布され、「保管証書遺言」の創設などが予定されています。新制度では、一定の手続のもと、パソコン等を利用して作成した遺言を法務局で保管する仕組みなどが導入される予定です。ただし、2026年8月現在、この改正部分はまだ施行されていません。
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代表 行政書士 辻下仁雄
Profile
大学で応用数学を学び、システムエンジニアとしてIT関連企業に勤務。2017年行政書士事務所を開業し現在に至る。
申請取次行政書士 2級ファイナンシャルプランニング技能士