
相続人同士で話し合い、「自宅は長男が相続する」「土地は妻が相続する」と決まったら、その合意内容を遺産分割協議書にまとめます。
しかし、不動産を相続する場合の遺産分割協議書は、単に「自宅を長男が相続する」と書けばよいわけではありません。遺産分割協議書を相続登記に使用するのであれば、どの不動産を誰が取得するのかを明確に特定できるように記載することが重要です。特に注意したいのが、不動産の「住所」と「登記上の表示」は必ずしも同じではないという点です。土地には「地番」、建物には「家屋番号」があり、マンションや共有不動産ではさらに確認しなければならない事項があります。
遺産分割協議によって不動産を特定の相続人が取得することになった場合、遺産分割協議書には、
「誰が」
「どの不動産を」
「取得するのか」
が分かるように記載します。
たとえば、父が亡くなり、母・長男・長女の3人で遺産分割協議を行い、父が所有していた自宅を長男が取得することになったとします。相続人間では、
”父の自宅は長男が相続する。”
という合意で十分に意味が通じますが、その内容を遺産分割協議書にする場合、
”相続人○○○○は、被相続人所有の自宅を取得する。”
とだけ記載するのではなく、取得する不動産を特定できるように表示することが重要です。
法務局が公開している遺産分割協議書の記載例でも、
”相続財産のうち、下記の不動産は、○○が単独で相続する。”
という本文の後に、土地について「所在・地番・地目・地積」、建物について「所在・家屋番号・種類・構造・床面積」を記載する形式が示されています。つまり、不動産の遺産分割では、「長男が自宅を取得する」という合意内容を、「長男がこの土地とこの建物を取得する」という形に具体化して書面にするという考え方が重要になります。
不動産の記載で最初に理解しておきたいのが、普段使っている住所と登記上の不動産の表示は同じとは限らないということです。
たとえば、自宅の住所が、
”○○市○○町一丁目2番3号”
だったとします。ところが、その土地の登記記録を見ると、
”所在 ○○市○○町一丁目”
”地番 23番”
となっていることがあります。この「23番」が土地を特定するための地番です。建物についても同様です。普段は土地と建物をまとめて「○○市○○町一丁目2番3号の自宅」と考えていますが、不動産登記では土地と建物は別々の不動産として扱われます。建物には土地の地番とは別に「家屋番号」があります。そのため、遺産分割協議書を作成するときは、住所をそのまま書くのではなく、対象となる土地・建物の登記内容を確認することが基本となります。
相続が発生した際、被相続人の不動産を調べる手掛かりとして、固定資産税の納税通知書や課税明細書を確認することがあります。これらは不動産を把握するための資料として役立ちます。しかし、遺産分割協議書を相続登記に使用するのであれば、最終的には登記事項証明書などによって登記されている内容を確認することが重要です。確認してみると、
といったことが判明する場合があるからです。遺産分割協議書を作成してから不動産の状態が想定と違うことに気付くより、協議書を作成する前に登記内容を確認しておくことが重要です。
土地については、登記事項証明書などを確認しながら、対象となる土地を特定します。一般的には次のような形で表示します。
土地の記載例
【土地】
所 在 ○○市○○町一丁目
地 番 23番
地 目 宅地
地 積 123.45平方メートル
それぞれの項目には意味があります。
「所在」:土地が所在する場所を示します。
「地番」:一筆の土地を特定するために付されている番号です。
住居表示が実施されている地域では、普段使用している住所の番号と地番が異なることがあります。そのため、”○○市○○町一丁目2番3号の土地”と住所だけを記載するのではなく、登記内容を確認する必要があります。
「地目」:土地の用途を表す項目です。たとえば、
などがあります。
「地積」:登記記録上の土地の面積です。
たとえば、”123.45平方メートル”などと記録されています。遺産分割協議書を作成する際には、自分で面積を測ったり推測したりするのではなく、登記内容を確認して記載することが重要です。
建物についても、登記事項証明書などを確認して対象となる建物を特定します。一般的には次のような形になります。
建物の記載例
【建物】
所 在 ○○市○○町一丁目23番地
家屋番号 23番
種 類 居宅
構 造 木造かわらぶき2階建
床面積 1階 43.00平方メートル
2階 21.34平方メートル
「所在」:建物が所在している場所です。
「家屋番号」:建物を特定するために付されている番号です。
土地の「地番」と建物の「家屋番号」は別のものですので、混同しないよう注意します。
「種類」:建物の主な用途を示します。たとえば、
などがあります。
「構造」:建物の主要な構造や階数などが記録されています。
「床面積」:各階の床面積が記録されています。
建物についても、現在の外観などから判断して記載するのではなく、登記事項証明書等に記録されている内容を確認して記載することが重要です。
実際の相続では、自宅の土地と建物を同じ相続人が取得するケースが多いでしょう。たとえば、長男が自宅の土地と建物の両方を取得する場合には、次のような記載が考えられます。
記載例
第1条 相続人○○○○は、次の不動産を取得する。
【土地】
所 在 ○○市○○町一丁目
地 番 23番
目 宅地
地 積 123.45平方メートル
【建物】
所 在 ○○市○○町一丁目23番地
家屋番号 23番
種 類 居宅
構 造 木造かわらぶき2階建
床面積 1階 43.00平方メートル
2階 21.34平方メートル
このように、取得する相続人と、その相続人が取得する土地・建物を対応させます。ここで注意したいのは、「自宅」という一つの財産が登記上も一つの不動産とは限らないことです。一般的な一戸建てであっても、”土地+建物”という少なくとも二つの不動産で構成されていることがあります。さらに、土地自体が複数筆に分かれている場合には、それぞれについて確認する必要があります。
被相続人が所有している不動産が、自宅だけとは限りません。たとえば、
など、複数の不動産を所有していることがあります。この場合には、それぞれの不動産について誰が取得するのかを明確にします。一つに見える土地が複数筆の場合もあります。特に注意したいのが自宅敷地です。現地を見ると一つの土地に見えても、登記上は、
というように、複数の土地に分かれている場合があります。このような場合に「23番1」だけを遺産分割協議書に記載すると、残りの土地が協議書から抜けてしまう可能性があります。したがって、不動産が複数ある場合には、「自宅」「駐車場」などの呼び方だけで判断せず、一筆の土地・一個の建物ごとに登記内容を確認することが重要です。相続人ごとに取得する不動産が違う場合、たとえば、
という分割をする場合には、それぞれの相続人が取得する不動産が分かるように記載します。誰がどの不動産を取得するのかを文章上でも明確に対応させることが重要です。
遺産分割の内容自体は相続人全員で決まっていても、不動産の表示が適切でないため、その後の相続登記で確認や修正が必要になることがあります。
特に次の点には注意しましょう。
普段使用している住所と登記上の地番・家屋番号は一致するとは限りません。登記内容を確認して記載します。
「○番○号」という住所の番号を、そのまま土地の地番だと思い込まないよう注意が必要です。
自宅を相続する」という認識であっても、土地と建物は別の不動産です。土地と建物の両方が被相続人の所有で、両方を同じ相続人が取得するのであれば、それぞれについて確認します。
建物には家屋番号があります。土地の地番と同じ番号になっている場合もありますが、必ず同じとは限りません。
一つの敷地に見えても、登記上は複数筆に分かれていることがあります。
このように、不動産の記載では、「何となくこの不動産だと分かる」ではなく、「どの不動産を指しているのかを登記記録と対応させて確認できる」という視点が大切です。
不動産を含む遺産分割協議書では、「誰が相続するのか」だけでなく、「その人がどの不動産を取得するのか」まで明確にすることが重要です。そのためには、遺産分割協議書を作成する前に対象となる不動産の登記内容を確認します。土地であれば、”所在・地番・地目・地積”、建物であれば、”所在・家屋番号・種類・構造・床面積”などを確認します。特に相続登記に使用することを予定している遺産分割協議書では、後になって「この土地が協議書から抜けていた」「地番ではなく住所を書いていた」といったことにならないよう、最初から登記内容を確認して作成することが大切です。
遺産分割協議書を作成する際に難しいのは、相続人同士で決めた内容をどのような文章にすればよいのかという点です。たとえば、
という場合でも、それを相続登記などの手続に使用する遺産分割協議書としてどのように記載すればよいのか分からないことがあります。特に、
といったケースでは、一般的なひな形をそのまま使用することが難しい場合があります。当事務所では、相続人間ですでに遺産の分け方について合意している方を対象として、その合意内容を遺産分割協議書として文章にする文案作成をサポートしています。相続人間の交渉や紛争解決、相続登記の代理申請を行うものではなく、決まっている内容を書面として整理することに特化することで、遺産分割協議書を必要としている方をサポートします。「ひな形では自分のケースをどのように書けばよいのか分からない」という場合には、遺産分割協議書の文案作成をご検討ください。
不動産を相続する場合の遺産分割協議書は、相続登記を見据えて作成することが大切です。
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大学で応用数学を学び、システムエンジニアとしてIT関連企業に勤務。2017年行政書士事務所を開業し現在に至る。
申請取次行政書士 2級ファイナンシャルプランニング技能士