
「遺言書を作りたいけれど、何から始めればよいかわからない」
「自分で書いても大丈夫なのか」
「公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらを選べばよいのか」
「作成した遺言書は法務局に預けた方がよいのか」
遺言書について調べ始めると、このような疑問が次々に出てきます。しかし、遺言書作成で最初に考えるべきことは、書式やひな形ではありません。最も重要なのは、「自分が亡くなった後、誰に、どの財産を、どのように残したいのか」を整理することです。その内容が決まって初めて、自筆証書遺言にするのか、公正証書遺言にするのか、法務局で保管するのかといった具体的な方法を検討できます。
遺言書を作成する大きな目的の一つは、自分が亡くなった後の財産の承継について、自分の意思を残しておくことです。たとえば、「自宅は妻に残したい」「預貯金は子ども2人で分けてもらいたい」「世話になった甥に財産の一部を残したい」「子どものいない夫婦なので、できるだけ多くの財産を配偶者に残したい」といった希望が考えられます。遺言書を作成しなかった場合は、原則として法律で定められた相続人によって相続手続を進めることになります。自分の希望する財産承継が法定相続と異なるのであれば、遺言書を作る意味は大きくなります。
遺言書を書く前に、少なくとも次の2つを整理します。
です。家族関係を確認せずに遺言内容を考えると、遺留分など重要な問題を見落とす可能性があります。また、財産を把握していなければ、「自宅については書いたが預金について書いていなかった」といった事態も起こり得ます。
遺言書を作成する必要性が比較的高くなるのは、たとえば次のようなケースです。子どものいない夫婦、独身で子どもがいない人、相続人同士の関係が複雑な場合、特定の人に不動産を残したい場合、相続人以外の人へ財産を残したい場合などです。大切なのは、「高齢だから遺言書を書く」のではなく、法定相続とは異なる財産承継を希望するかどうかから考えることです。
一般的に遺言書を作成する際によく利用されるのが、自筆証書遺言と公正証書遺言です。
自筆証書遺言は、原則として遺言者自身が本文を手書きして作成する遺言です。証人を用意する必要がなく、自分で作成できるため、比較的手軽に利用できます。一方で、法律上定められた方式に従わなければならず、書き方を誤ると遺言が無効になる可能性があります。また、自宅で保管すると紛失や発見されないリスクがあります。この問題を補うために現在利用できるのが、法務局の自筆証書遺言書保管制度です。
公正証書遺言は、公証人が関与して作成する遺言です。遺言者の希望を公証人に伝え、公証人が法律に定められた方式に従って公正証書として作成します。作成には原則として証人2人以上の立会いが必要です。公証人が関与して作成されるため、自筆証書遺言に比べて方式上の不備が生じるリスクを抑えやすいことが特徴です。
一律に「こちらの方がよい」と決めることはできません。内容が比較的シンプルで、自分で遺言書を書ける場合には、自筆証書遺言を作成し、法務局の保管制度を利用する方法があります。一方、財産が多い、家族関係が複雑、相続トラブルが予想される、本人が全文を自書することが難しい、といった場合には、公正証書遺言を検討する意味が大きくなります。
自筆証書遺言には法律で定められた方式があります。
自筆証書遺言では、原則として遺言書の全文、作成日付、氏名を遺言者本人が自書します。本文をパソコンで作成し、最後だけ署名するという方法では自筆証書遺言にはなりません。日付についても、「令和○年○月吉日」ではなく、「令和○年○月○日」のように作成年月日を特定できるよう記載します。
氏名を自書したうえで押印します。法務省の案内では認印でも差し支えないとされています。
自筆証書遺言でも、財産目録については例外があります。財産目録はパソコンで作成したり、不動産の登記事項証明書や預貯金通帳のコピーを利用したりすることができます。ただし、自書ではない財産目録を使用する場合には、法律で定められた方法に従って署名・押印する必要があります。
方式を守るだけでは十分ではありません。遺言書は、相続開始後に第三者が読んでも、誰が、どの財産を取得するのか判断できる内容にしておく必要があります。ここが、単純なひな形では解決しにくい部分です。
遺言書を書く前に、現在所有している財産を一覧にしてみます。
土地、建物、マンションなどです。不動産について遺言書を書く場合は、対象となる不動産を特定できるようにしておくことが重要です。登記事項証明書などを確認しながら整理します。
銀行名だけではなく、支店や口座の種類なども確認します。複数の金融機関に口座がある場合は一覧にしておくと整理しやすくなります。
証券会社の口座、保有している株式や投資信託なども確認します。
生命保険、貸付金、自動車、貴金属など、相続の対象となり得る財産についても整理します。
遺言書作成後に財産が増えたり、書き忘れていた財産が見つかったりなど書き漏らした財産ががでてくる可能性があります。そのため、個別財産の記載だけでなく、遺言書に具体的に記載していないその他の財産を誰に取得させるかについても検討しておくとよいでしょう。
財産を整理したら、次に「誰に残すのか」を考えます。
配偶者や子どもが相続人になる一般的なケースでも、必ずしもすべての財産を法定相続分どおりに分けたいとは限りません。たとえば、自宅については同居している配偶者に取得してもらいたいという希望も考えられます。
子どもがおらず、一定の場合には兄弟姉妹が相続人となるケースがあります。特に、「夫婦で築いた財産なので配偶者に残したい」という希望がある場合には、遺言書の必要性を検討する意味があります。
子どものいない夫婦の場合、「夫または妻がすべて相続する」と思われていることがあります。しかし、亡くなった人の父母や兄弟姉妹などが相続人となるケースがあります。そのため、配偶者に財産を残したい場合には、遺言書を検討する代表的なケースの一つです。
独身で子どもがいない場合も、自分が亡くなったときに誰が相続人になるかを確認することが重要です。親や兄弟姉妹、場合によっては甥・姪まで相続関係が広がることがあります。「この人に財産を残したい」という希望があるのであれば、遺言書で意思を明確にしておく必要があります。
孫、甥・姪、内縁の配偶者、友人など、法定相続人ではない人へ財産を残したい場合もあります。この場合は遺言による遺贈を検討することになります。
遺言書を作成するときに重要なポイントの一つが遺留分です。
遺留分とは、一定の相続人について法律上確保されている最低限度の取り分です。遺言者が自由に財産の承継先を決められる一方で、一定の相続人については遺留分が問題になります。
兄弟姉妹は法定相続人となる場合がありますが、遺留分はありません。そのため、たとえば子どものいない夫婦で兄弟姉妹が相続人となるケースでは、この点が遺言書作成を検討するうえで重要になります。
遺留分を侵害する遺言が直ちに無効になるわけではありません。遺留分を侵害する内容が書かれているからといって、その遺言書自体が当然に無効になるわけではありません。ただし、相続開始後に遺留分侵害額請求が問題となる可能性があります。
遺言書を作る目的が相続トラブルを減らすことであるなら、「法律上書けるか」だけではなく、「この内容で相続が始まったときに何が起こるか」までを考慮し、相続後のトラブルを考えて内容を設計することが重要です。
不動産は、遺言書の中でも特に正確な記載が必要になる財産です。「自宅を妻に相続させる」というだけではなく、対象となる土地・建物などの不動産が特定できるよう明確に記載することが重要です。土地であれば所在・地番・地目・地積、建物であれば所在・家屋番号など、登記事項証明書の内容を確認して正確に整理します。
預貯金についても、金融機関名、支店名、預金種類などを確認して対象となる財産を判断できるよう記載します。また、預貯金は、不動産とは異なり、遺言書作成後も残高が変動することを前提に考えます。そのため、作成時点の金額だけで財産を考えるのではなく、相続開始時にどのような状態になるかも考慮して文案を作ります。
遺言執行者とは、遺言内容を実現するために必要な手続を行う者です。遺言書で指定することができます。
財産の種類が多い場合、相続人以外への遺贈がある場合、遺言内容を確実に実行してもらいたい場合などには、遺言執行者の指定を検討します。遺言書は「誰に財産を残すか」だけではなく、「亡くなった後に、誰がその内容を実現するのか」まで考えて作成することが大切です。
自筆証書遺言を完成させた後には、保管方法も考えなければなりません。自宅で保管すること自体は可能です。ただし、紛失する、相続人に発見されない、破棄・改ざんされる、といったリスクがあります。
現在は、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用することができます。自分で作成した自筆証書遺言書を法務局に預け、原本を保管してもらう制度です。通常、自宅などで保管されていた自筆証書遺言については、相続開始後に家庭裁判所の検認が必要となる場合があります。一方、法務局に保管されている自筆証書遺言について交付される遺言書情報証明書は、検認を必要としません。
法務局に自筆証書遺言書を保管してもらう制度です。法務局で保管することで、紛失や改ざんなどの保管上のリスクを抑えることができます。また、相続開始後に一定の場合には相続人等へ遺言書の存在を知らせる通知制度もあります。自筆証書遺言書の保管申請手数料は、1件3,900円です。公証人が関与する公正証書遺言とは異なり、自分で作成した遺言書を法務局へ保管する制度なので、比較的利用しやすい費用設定となっています。
法務局では、自筆証書遺言について形式面の確認を行います。しかし、「妻に全部残した方がよいか」「遺留分を考えるとこの分け方でよいか」「この文章で不動産を確実に取得してもらえるか」といった遺言内容そのものについて相談する制度ではありません。したがって、遺言書の内容を考えることと完成した遺言書を法務局に保管することは分けて考える必要があります。
遺言書の費用は、作成方法によって大きく異なります。
自分で作成するだけであれば、遺言書そのものについて公的な作成手数料はありません。用紙や財産確認のための証明書などの実費が中心となります。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合、保管申請手数料は1件3,900円です。
公正証書遺言では、公証人手数料が必要です。金額は財産の価額や、財産を取得する人などによって変わります。したがって、「公正証書遺言はいくら」と一律には言えません。
例えば、財産の価値が1,000万円〜3,000万円以下であれば、公証人手数料はおおよそ26,000円(目安)。その他に証人に支払う謝礼や文案作成を専門家に依頼した場合、専門家報酬などが必要になります。
自筆証書遺言を選択しても、遺言内容の整理や文案だけを専門家(司法書士,行政書士,弁護士等)へ依頼するという方法があります。「公正証書にするほどではないが、自分だけで文章を考えるのは不安」という方にとっては、一つの選択肢になりますが、報酬(一般的に5万〜10万円程度)が必要になります。
自筆証書遺言では、法律で定められた方式を守る必要があります。
たとえば、本文をパソコンで作成して署名だけ手書きした場合、自筆証書遺言としての方式を満たしません。財産目録以外の本文は、自書することが必要です。
「○月吉日」のように作成日を特定できない記載は避けます。年月日を明確に記載します。
自筆証書遺言には、訂正・追加についても法律で定められた方法があります。修正液などで簡単に直せばよいというものではありません。訂正が多くなった場合には、書き直した方が安全なケースもあります。
形式を守っていても、遺言者に遺言をするために必要な意思能力があったかが後から問題になることがあります。特に認知症などが関係するケースでは、「認知症という診断名があるか」だけではなく、遺言書を作成した時点で遺言内容を理解し判断できたかが重要になります。
その他にも、誰にどの財産を相続させるが不明確な内容となっている場合や遺言内容が公序良俗に違反していると判断された場合は無効となる可能性があります。
インターネットには多くの遺言書のひな形があります。ひな形そのものが役に立たないわけではありません。「相続させる」という表現や、遺言執行者を指定する文例など、文章の基本形を知るためには参考になります。しかし、ひな形では、
といった個別の問題までは決めてくれません。本当に難しいのは「何を書くか」を決めることです。遺言書作成で本当に重要なのは、文章を書き始める前に、遺言内容を論理的に整理することです。

「自筆証書遺言を作りたい」「法務局の保管制度を利用したい」「自分で遺言書を書きたい」という方でも、すべてを自分だけで考える必要はありません。当オフィスでは、依頼者の希望や家族関係、財産の内容を確認したうえで、遺言書に記載する文案の作成をサポートしています。
大切なのは、単にひな形を埋めることではありません。たとえば、「妻にできるだけ財産を残したい」という希望があれば、
といった事項を整理する必要があります。それらを一つずつ確認し、「実現したいこと」から逆算して遺言書の文章を組み立てることが、文案作成の中心になります。
遺言書を作ろうと思ったとき、最初から文章を書く必要はありません。まず、誰に財産を残したいのかを考えます。次に、どのような財産があるのかを確認します。そして、どの財産を誰に取得してもらいたいのかを整理します。そのうえで、
といった方法を決めていけば、遺言書の全体像が見えてきます。遺言書は、形式だけ整っていればよい書類ではありません。大切なのは、自分の希望を整理し、その希望が相続開始後にも理解できる文章として残されていることです。
「自分で遺言書を書きたいけれど、内容の整理や文章の作り方がわからない」そのような場合には、遺言書の文案作成だけを専門家に依頼する方法もあります。当オフィスでは、遺言書の文案作成に特化し、ご希望を整理しながら、実際に遺言書として使用する文章を組み立てるサポートを行っています。
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代表 行政書士 辻下仁雄
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大学で応用数学を学び、システムエンジニアとしてIT関連企業に勤務。2017年行政書士事務所を開業し現在に至る。
申請取次行政書士 2級ファイナンシャルプランニング技能士