個別契約とは、特定の個々の取引を対象とした契約です。それに対して基本契約とは一定の継続的取引を対象として各個別取引あるいは個別契約に共通して適用される一般的な基本的条件をあらかじめ規定した契約と考えられます。売買契約の基本や業務委託の基本等がありますが、同じ取引が継続的に繰り返されることを前提としています。例外的にはシステム開発委託契約のようなものもあります。システム開発契約は継続的ではなく単発の契約が一般的ですが、そもそもシステムの開発は仕様が多岐にわたり、その期間も長期になる場合が多く、あくまでも基本として、契約の目的や業務内容,契約期間,業務フロー,報酬の支払い方法などを基本として締結し、要件定義,詳細設計,プログラム作成など個々の工程を個別契約とするものもあります。基本契約と個別契約はセットで考えます。
基本契約は何故必要か
基本契約を締結する意義としては
・全社的な契約関係の画一化
・個別契約の締結に必要な条項を省力化して事務の便宜を図る
・継続的取引から生じる債権の保全
といったことがあげられます。
全社的な契約関係の画一化
取引類型に関わらず、新たに取引を開始する相手方に対して全社的に統一された取引規則を尊守してもらうことが考えられます。一例をあげれば、コンプライアンスの観点から法令尊守義務を課したり、代表者の変更等の報告義務を課す等の条項があります。
個別契約の締結に必要な条項を省力化して事務の便宜を図る
典型的な売買契約で考えますと、受発注や出荷が日々くりかえされる取引では、その都度細かい条件を定めた個別契約を締結したのでは、煩雑になります。そのため、商品の検査方法、所有権と危険負担の移転時期、品質保証責任、決済条件等を基本契約として締結しておけば、個別契約では、商品名、商品の数量、価格、納期などの限られた事項について確認すれば足り、事務手続きの簡素化を図ることができます。実際には、注文書や注文請書によって行われています。
継続的取引から生じる債権の保全
継続的取引を開始するにあたっては、契約当事者における立場を問わず恒常的に発生する債権の保全を図る必要があります。例えば、売掛金債権であったり、品質不良等から生じる損害賠償請求債権などです。これらは、契約解除条項や期限の利益喪失条項、相殺条項があります。
基本契約と個別契約の規定が矛盾した場合
基本契約と個別契約の規定に相違が生じる場合があります。このような場合にどちらの規定が優先して適用されるかは一概に決められるものではありません。一般的には事前に基本契約を締結した後に、個別契約を締結することから、個別契約において基本契約とは異なるあらたな条件を取り決めたと考え、個別契約の規定が優先するとも考えられますが、一方、基本契約の規定と異なる規定をした個別契約は基本契約に違反しているとも考えられ、そもそも無効とも考えられます。このような矛盾によって起こりうる紛争を未然に防止するため、どちらの規定を優先して適用するかを基本契約においてあらかじめ規定しておく必要があります。基本契約で規定が無い場合、どちらを優先するかについては、基本契約に定められている条件や、当該取引の個別具体的な実情を考慮する必要がありますが、個別契約を優先させている場合が一般的です。
基本契約において個別契約優先を定める条項例(売買契約を例として)
本契約は買主と売主との間に締結される〇〇の個別売買契約に共通に適用される。ただし、個別売買契約において、本契約と異なる事項を約することを妨げす、本契約に定める事項と個別売買契約に定める事項に相違を生じた場合には、個別売買契約の規定を優先して適用するものとする。
基本契約において基本契約優先を定める条項例(売買契約を例として)
本契約は買主と売主との間に締結される〇〇の個別売買契約に共通に適用される。本契約に定める事項と個別売買契約に定める事項に相違を生じた場合には、本契約の規定を優先して適用するものとする。
基本契約の失効
基本契約が期間満了や解除によって効力を失っても原則として個別契約は存続します。しかし、個別契約では基本契約の存在を前提として詳細な条件等を規定していない場合があり、このような場合、問題が生じることが考えられます。したがって、基本契約で基本契約が失効した場合でも、基本契約の失効までにすでに成立している個別契約については、基本契約の規定がそのまま適用されることをあらかじめ規定しておくことが必要です。
基本契約の失効と個別契約への適用を規定する基本契約の条項例
本契約が期間満了または契約解除により失効した場合であっても、現に存する未履行の個別契約については本契約の各条項がなおその効力を有する。
基本契約で規定しておくべき事項
基本契約全般に共通して必用な条項としては、契約違反,期限の利益喪失,契約解除,損害賠償,紛争解決といった条項があげられます。ここにあげた条項は債権者としての権利をあらかじめ確保しておく条項ですが、、規定がなくても民法などの一般原則に基づいて確保できますが、十分とはいえないものがあります。したがって、基本契約で明記しておくことが望ましいといえます。