遺言書を作れば死後の準備は全てできる?遺言書だけでは決められないことと死後事務委任契約

/死後事務委任契約の仕組み|自分が亡くなった後の手続は誰に頼む?/遺言書だけでは決められないことと死後事務委任契約


遺言書だけでは決められないことと死後事務委任契約 ―遺言書を作れば死後の準備はすべてできる?―

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「自分が亡くなった後のことを決めておくなら、遺言書を書けばよいのでは?」そう考える方は少なくないでしょう。例えば、「自宅は長男に残したい」「預貯金は妻に相続させたい」「お世話になった人にも財産を残したい」といった希望について、遺言書は重要な役割を果たします。

では、「葬儀は家族だけで行ってほしい」「○○寺に納骨してほしい」「一人暮らしの部屋を片付けてほしい」「携帯電話やインターネットを解約してほしい」といったことも、すべて遺言書に書いておけばよいのでしょうか。ここで知っておきたいのが、「遺言書に書くことができる」ことと、「書いた内容に遺言として法的な効力が生じる」ことは同じではないということです。

遺言書には遺言書の役割があります。一方で、本人が亡くなった後に必要となるさまざまな手続については、遺言書とは別に「死後事務委任契約」を検討した方がよい場合があります。

遺言書は「自分が亡くなった後のことを何でも決められる書類」ではありません

まず知っておきたいのは、遺言書に何かを書けば、その内容すべてに同じような法的効力が生じるわけではないということです。もちろん、遺言書には自分の希望を書くことができます。例えば、「家族には仲良く暮らしてほしい」「葬儀はできるだけ質素にしてほしい」「これまで支えてくれた妻に感謝している」と書くこともできます。しかし、「書くことができるか」と、「書けば遺言として法的な効力が生じるか」は別の問題です。

遺言によって法的な効力を生じさせることができる事項は、法律によって定められています。そのため、「自分が亡くなった後の希望は、全部遺言書に書けば解決する」とは限らないのです。

そもそも遺言書は何のために作るのでしょうか

遺言書の重要な役割の一つは、自分が亡くなった後の財産承継などについて、自分の意思を残しておくことです。例えば、「自宅を妻に相続させる」「預貯金を長男と次男に一定の割合で相続させる」「相続人ではない友人に財産を遺贈する」といった内容です。

遺言書がなければ、原則として相続人による遺産分割協議が必要になる場面でも、有効な遺言によって財産の承継先などが具体的に決められていれば、その内容に従って相続手続を進められる場合があります。そのため、遺言書は、「自分の財産を誰にどのように引き継いでもらうのか」を考えるうえで非常に重要な書類です。

ただし、遺言で法的効果を生じさせることができるのは財産承継だけではありません。例えば、法律上認められた範囲で、

 ・ 遺贈

 ・ 相続分の指定

 ・ 遺産分割方法の指定

 ・ 遺言執行者の指定

 ・ 子の認知

 ・ 未成年後見人の指定

などについて遺言を利用することができます。つまり、「遺言書=財産のことしか書けない」という説明も正確ではありません。

重要なのは、遺言によって法的な効力を生じさせることが法律上認められている事項があるという点です。

遺言書には「法的な効力が生じる部分」と「希望を伝える部分」があります

ここは遺言書を理解するうえで非常に重要です。例えば、私の○○銀行の預金を妻Aに相続させる。という内容と、葬儀は家族だけで静かに行ってほしい。という内容を比べてみましょう。どちらも本人の希望です。しかし、法律上の意味は同じではありません。前者は、適切な内容・方式で遺言されていれば、財産の承継について法的な効果を生じさせることができます。

一方、「葬儀は家族だけで行ってほしい」という希望は、遺言書に書いたというだけで、通常、相続人などに対してその葬儀を実施する法的義務を生じさせるものではありません。つまり、遺言書の中に書いてある文章がすべて同じ法的効力を持つわけではないのです。

遺言書の「付言事項」とは?

遺言書には、法的な効力を生じさせる遺言事項だけでなく、本人の思いや希望を書くことがあります。このような記載は一般に”「付言事項」”と呼ばれます。例えば、「妻には長年支えてもらい感謝しています」「長男に自宅を相続させるのは、今後もこの家を守ってもらいたいからです」「兄弟で争わず仲良くしてほしい」といった内容です。

付言事項に法的拘束力がないからといって、書く意味がないわけではありません。なぜこのような遺言をしたのかを家族に伝えたり、本人の気持ちを残したりするうえでは、大きな意味を持つことがあります。しかし、「本人の希望を伝えること」と「相手に法的な義務を負わせること」は別です。


葬儀について遺言書に書けば、そのとおりにしてもらえる?

例えば、私の葬儀は家族葬とし、○○葬儀場で行ってほしい。と遺言書に書いたとします。本人の希望を家族に伝えるという意味はあります。しかし、この記載だけを理由として、指定された人が当然に「その葬儀を実施しなければならない」という遺言上の法的義務を負うわけではありません。

そこで、「希望を書き残す」だけでなく、「特定の人にその事務を実際に頼んでおきたい」のであれば、別の方法を検討する必要があります。その方法の一つが、死後事務委任契約です。

納骨について遺言書に書けば大丈夫?

納骨についても同じ問題があります。例えば、私の遺骨は○○寺の先祖代々の墓に納骨してほしい。という希望を遺言書に記載することは考えられます。しかし、「希望を書いておくこと」と「誰かに納骨に必要な事務を契約として依頼しておくこと」は違います。本当にその希望を実現したいのであれば、「誰が寺院へ連絡するのか」「誰が遺骨を受け取るのか」「誰が納骨に必要な手配をするのか」「費用はどうするのか」といった実際の事務まで考えておく必要があります。つまり、「○○してほしい」という希望と、「そのために必要な事務を誰に任せるのか」は分けて考える必要があります。

遺言書だけでは対応しにくい死亡後の手続があります

例えば、一人暮らしをしていた人が亡くなった場合です。死亡後には、「親族や知人へ誰が連絡するのか」「葬儀を誰が手配するのか」「火葬について誰が手続するのか」「納骨を誰が手配するのか」「賃貸住宅について誰が対応するのか」「家財についてどうするのか」「携帯電話について誰が手続するのか」「インターネット等の契約について誰が対応するのか」など、さまざまな問題が発生する可能性があります。

これらをすべて、「遺言書に希望を書いておけば誰かがやってくれる」と考えるのは適切ではありません。死亡後の具体的な事務を特定の人に依頼しておきたいのであれば、「誰に」「何を」「どこまで」任せるのかを別途整理しておく必要があります。

「死後事務委任契約」という方法があります

死後事務委任契約とは、簡単にいえば、「自分が亡くなった後に必要となる事務を、生きているうちに特定の人へ頼んでおく契約」です。例えば本人が妹に、私が亡くなった後、葬儀と納骨に必要な事務をお願いします。と依頼し、妹が、分かりました。引き受けます。と合意します。そのうえで、

「何を委任するのか」

「どこまで任せるのか」

「費用をどうするのか」

「報酬はどうするのか」

などを契約書として整理します。ここが、本人が一人で遺言書に希望を書いておく場合との大きな違いです。

遺言書と死後事務委任契約の違い

まず次のように整理します。

本人が決めたいこと 主に検討するもの
自宅を妻に相続させたい 遺言書
預貯金を長男に相続させたい 遺言書
友人に財産を遺贈したい 遺言書
遺言執行者を指定したい 遺言書
葬儀に関する事務を妹に頼みたい 死後事務委任契約を検討
納骨に関する事務を甥に頼みたい 死後事務委任契約を検討
死亡後の各種契約等について必要な対応を頼みたい 死後事務委任契約を検討
死亡後の住居や家財について必要な事務を頼みたい 死後事務委任契約を検討

大まかにいえば、

遺言書=死亡後の財産承継などについて本人の意思を法的に残す

対して、

死後事務委任契約=死亡後に必要となる事務を誰かに契約として頼んでおく

という違いがあります。
ただし、具体的な事項によって適切な方法や法的な限界は異なります。「財産なら全部遺言書、手続なら全部死後事務委任契約」と機械的に分けるのではなく、本人が実現したい内容ごとに整理することが大切です。

遺言書は「本人がするもの」、死後事務委任契約は「相手との契約」

もう一つ、違いがあります。

遺言は、一定の方式に従って本人が単独ですることができる法律行為です。例えば自筆証書遺言であれば、法律で定められた方式に従って本人が遺言書を作成します。これに対して死後事務委任契約は、契約です。本人だけで、「妹に葬儀を頼む」と紙に書いても、それだけで妹との死後事務委任契約が成立するわけではありません。本人が依頼し、相手がそれを引き受ける。

つまり、双方の合意が必要です。この違いを理解すると、「遺言書に全部書いておけばよい」とは限らない理由が分かりやすくなります。

「遺言書に書く」のと「契約する」のは何が違う?

例えばAさんが、私が亡くなったら、妹Bに葬儀をしてもらいたい。と考えているとします。遺言書などに希望を書く場合は、Aさんが、「妹Bに葬儀をしてもらいたい」と記載します。これはAさんの希望を残すものです。

死後事務委任契約の場合は、AさんがBさんに、「私が亡くなった後、葬儀に関する事務をお願いします」と依頼します。Bさんが、「引き受けます」と承諾します。そして、「具体的に何を頼むのか」「費用をどうするのか」「どのような希望があるのか」などを契約書にします。つまり、「こうしてほしい」と希望を書くことと、「あなたにお願いします」「引き受けます」と契約することには違いがあります。

遺言執行者を指定すれば、死後のことを全部してくれる?

「遺言書に遺言執行者を指定しておけば、その人が葬儀や納骨なども全部やってくれるのでは?」という疑問です。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な行為をする人です。法律上も、遺言執行者には「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為」をする権利義務があるとされています。しかし、それは、「本人が死亡した後のあらゆる事務を何でも行う人」という意味ではありません。

例えば、葬儀・納骨その他の生活上の死後事務については、遺言執行者としての権限とは別に考える必要があります。そのため、遺言執行者と死後事務受任者は、役割を分けて考える必要があります。同じ人を両方にすることも考えられますが、その場合でも、「遺言執行者として行うこと」と、「死後事務委任契約の受任者として行うこと」は法的な根拠が異なります。

死後事務委任契約を実際に作成する場合には、「何を委任するのか」を具体的な契約条項にする必要があります。

=>『死後事務委任契約書の書き方|必要な条項と作成時の注意点』


遺言書と死後事務委任契約は「どちらか一つ」を選ぶものではありません

例えば、遺言書で「自宅を甥Aに相続させる」「預金を姪Bに相続させる」「友人Cに100万円を遺贈する」「Aを遺言執行者に指定する」と定めます。それとは別に、死後事務委任契約では「妹Dに葬儀に関する事務を頼む」「納骨に必要な事務をDに頼む」「その他契約で定めた死後事務をDに頼む」とすることができます。

つまり、財産の承継等については遺言書死亡後の具体的な事務については死後事務委任契約と役割を分担させることができます。

同じ人を遺言執行者と死後事務受任者にすることもできます

例えば甥Aを、遺言執行者かつ死後事務受任者とする方法も考えられます。この場合、本人が死亡した後、Aは一人の人間としてさまざまな事務に関わることになります。しかし法律上は、

遺言を執行するとき→ 遺言執行者として

死後事務委任契約で頼まれた事務をするとき→ 死後事務受任者として

行動することになります。そのため、同じ人に頼む場合でも、遺言書と死後事務委任契約書のそれぞれで何を任せるのかを整理しておくことが大切です。

別の人に頼む場合には、二つの書類の関係を整理しておく

例えば、『遺言執行者=長男A』『死後事務受任者=妹B』という設計もできます。この場合には、AとBがそれぞれ別の立場で死亡後の手続に関わります。すると、「葬儀費用はどこから支払うのか」「家の中にある重要書類を誰が管理するのか」「家財の中に遺言執行に必要なものがあった場合どうするのか」といった問題が生じる可能性があります。だからこそ、遺言書と死後事務委任契約書を別々に考えるだけでなく、二つの書類の内容が矛盾しないように設計することが重要です。

具体例として独身で甥に財産を残し、妹に葬儀を頼みたい場合

Aさんは独身で子供はいません。自分が亡くなったら、「自宅は甥Bに残したい」「預貯金の一部を友人Cにも残したい」「葬儀と納骨は妹Dにお願いしたい」と考えています。この場合、すべてを一つの書類で解決しようとするのではなく、

財産について

自宅 → 甥B

預貯金の一部 → 友人C

といった財産承継について遺言書を検討します。

死後の事務について

葬儀 → 妹D

納骨 → 妹D

その他必要な死後事務 → 妹D

として死後事務委任契約を検討します。こうすれば、「財産を誰に残すか」と、「死亡後の手続を誰にしてもらうか」を分けて整理できます。

具体例として子供のいない夫婦の場合

夫婦の場合、「自分が亡くなったら配偶者が手続をしてくれるから大丈夫」と思うかもしれません。しかし、夫婦の一方が先に亡くなれば、もう一方が残ります。さらに年月が経ち、最後に残った配偶者が亡くなったときはどうでしょうか。

例えば子供がいなければ、「財産を誰に残すのか」だけでなく、「最後に残った一人の葬儀を誰がするのか」「納骨を誰がするのか」「住居等について誰が必要な手続をするのか」まで考える必要があります。そのため、遺言書による財産承継の準備と、死後事務委任契約による死亡後の事務の準備を組み合わせて検討する意味があります。

特に独身の方は「財産」と「死後の手続」を分けて考えてみる

独身で子供がいない場合も同様です。例えば、「財産は甥や姪に残したい」と思っていても、その甥や姪が当然に、「葬儀」「納骨」「住居」「家財」などのすべてを担当してくれるとは限りません。財産を受け取る人と、死後の事務をお願いしたい人が同じとも限りません。

そこで、財産について誰に残したいのか。死後事務について誰に何を頼みたいのか。という二つの質問に分けて考えてみると、必要な準備が見えてきます。


死後事務をしてくれる家族・親族・知人がいる場合でも契約書を作る意味があります

死後事務委任契約というと、「身寄りのない人が専門業者に全部お願いする契約」というイメージを持つかもしれません。しかし、それだけではありません。例えば、

「妹が葬儀や納骨をしてくれることになっている」

「甥に死亡後の手続をお願いする話ができている」

「信頼している知人が引き受けてくれる」

という場合もあります。

このような場合、新しく死後事務をしてくれる人を探すのではなく、すでに決まっている人との約束を契約書として整理するという方法があります。本人が、「何をお願いしたいのか」を整理し、受任者が、「何を引き受けるのか」を確認する。そして双方の合意を死後事務委任契約書として残します。

二つを一緒に検討する最大のメリットは、自分の死後について「財産」と「事務」の両面から整理できることです。例えば、「財産は何があるか」「誰に残したいか」「遺言執行者を誰にするか」など遺言書で確認することと、「死亡後にどのような事務が必要か」「誰に頼むか」「どこまで頼むか」「費用をどうするか」「遺言執行者との役割分担をどうするか」など死後事務委任契約書で確認すること、というように整理できます。その結果、遺言書だけ作って死亡後の実務が決まっていなかったという状態を避けやすくなります。

遺言書は、自分が亡くなった後の財産承継などについて意思を実現するための重要な書類です。しかし、遺言書に自分の希望を何でも書けば、そのすべてに遺言として法的な効力が生じるわけではありません。

葬儀についてどうしてほしいのか。

納骨についてどうしてほしいのか。

死亡後のさまざまな手続を誰に頼むのか。

こうしたことについては、希望を書き残すことと、特定の人に事務を依頼し、その人が引き受けることを分けて考える必要があります。そこで一つの方法となるのが、死後事務委任契約です。

非常に簡単に整理すると、『遺言書 → 「財産などをどうするか」を決める』、『死後事務委任契約書 → 「死亡後の事務を誰に頼むか」を決める』という違いがあります。そして、両方が必要な方については、遺言書と死後事務委任契約書を別々に作るだけでなく、二つの内容が矛盾しないように整理することが大切です。


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当オフィスでは、家族・親族・知人等に死後の手続を依頼したい方について、「誰に・何を・どこまで頼むのか」を整理し、死後事務委任契約書として文書化するサポートをご検討いただけます。また、遺言書も必要な場合には、「財産の承継を定める遺言書」と「死亡後の事務を依頼する死後事務委任契約書」の役割を整理したうえで遺言書文案化のサポートもご検討いたたけます。自分が亡くなった後の準備は、「遺言書を書くこと」で終わりではありません。財産の行き先と、死亡後の手続。この二つを分けて考えることで、自分が本当に準備しておきたいことが見えてきます。

死後事務委任契約書ついて疑問点,不明点などあれば、まずはご相談ください。



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代表 行政書士 辻下仁雄

        Profile
        大学で応用数学を学び、システムエンジニアとしてIT関連企業に勤務。2017年行政書士事務所を開業し現在に至る。
        申請取次行政書士    2級ファイナンシャルプランニング技能士