/死後事務委任契約の仕組み|自分が亡くなった後の手続は誰に頼む?/死後事務委任契約と遺言書の付言事項との違い

「葬儀は家族だけで静かに行ってほしい」
「遺骨は○○寺のお墓に納骨してほしい」
「自分が亡くなったら、親しい友人にも連絡してほしい」
このような希望がある場合、「遺言書に書いておけば、そのとおりにしてもらえるのでは?」と考える方もいるでしょう。確かに、遺言書には財産のことだけでなく、家族への感謝や自分の希望を書くこともできます。このような記載は一般に””「付言事項」””と呼ばれています。しかし、遺言書に「葬儀は家族葬にしてほしい」と書くことと、「妹に葬儀に関する事務を依頼し、妹がそれを引き受ける」ことは、法律上同じではありません。
前者は本人の希望を伝えることです。後者は本人と受任者との間で事務を依頼する契約をすることです。
遺言書には、「自宅を妻Aに相続させる」「預貯金を長男Bに相続させる」「友人Cに500万円を遺贈する」といった財産承継に関する内容を書くことがあります。このような法律上の遺言事項とは別に、遺言書には本人の思いや希望を書くこともできます。例えば、
「これまで支えてくれた妻に感謝しています」
「長男に自宅を相続させるのは、これからもこの家を守ってもらいたいからです」
「兄弟で争うことなく、これからも仲良くしてください」
といった内容です。このように、遺言者の気持ちや希望などを伝えるために記載する事項を、一般に付言事項と呼んでいます。つまり付言事項は、遺言者から残された家族などへのメッセージとして利用することができます。
付言事項には、さまざまな内容を書くことが考えられます。例えば、
「長年支えてくれた妻に心から感謝しています」
「長男に自宅を相続させるのは、長男が長年私と同居し、家を維持してくれたからです」
「兄弟で争うことなく、今後も仲良くしてほしいと思っています」
「葬儀はできるだけ簡素にし、家族だけで行ってほしいと思っています」
「遺骨は○○寺の先祖代々のお墓に納骨してほしいと思っています」
このように、付言事項は本人の思いや希望を伝えるために利用できます。ただし、「遺言書に書くことができる」ことと、「書いた内容に法律上の効力が生じる」ことは別です。ここが、付言事項を理解するうえで最も重要なポイントです。
例えば、「自宅を妻Aに相続させる」という記載と、「兄弟で仲良くしてほしい」という記載を比べてみましょう。どちらも同じ遺言書に書くことができます。しかし、法律上の意味は同じではありません。前者は、遺言の方式や内容が適法であることを前提として、財産の承継について法的な効果を生じさせることができます。
一方、「兄弟で仲良くしてほしい」という記載によって、兄弟に「仲良くする」という法律上の義務が発生するわけではありません。法務局も、遺言書には家族への感謝、遺言書を作成した経緯や思い、遺産分配の理由など、法的に効力を生じない事項についても記載できると説明しています。したがって、付言事項は「法的に命令するための記載」というより、「本人の意思や思いを伝えるための記載」と理解すると分かりやすいでしょう。
法的な効力がないなら、付言事項を書く意味はないのではと考えられますが、そのようなことはありません。法的な拘束力があるかどうかと、付言事項を書く意味があるかどうかは別の問題です。例えば、「なぜ長男に自宅を相続させるのか」という理由を何も書かなければ、他の相続人が、「なぜ兄だけが自宅をもらうのか」と疑問に思うかもしれません。そこで、「長男は長年私と同居し、生活を支えてくれました。そのため自宅は長男に残したいと思います」と本人の考えを付言事項として残しておけば、遺言内容を理解してもらうための一助になることがあります。
同じように、「葬儀はできるだけ小規模にしてほしい」「○○寺に納骨してほしい」という本人の希望を家族が知ることにも意味があります。つまり、付言事項は「法的に強制するため」ではなく、「自分の思いや希望を伝えるため」に活用できるということです。
例えばAさんが遺言書に、私の葬儀は家族だけで静かに行ってください。と書いたとします。家族が遺言書を確認すれば、「本人は家族葬を希望していたのだ」と知ることができます。その意味では、付言事項を書く価値があります。しかし、この記載だけで、特定の家族に「家族葬を実施しなければならない」という契約上の義務が発生するわけではありません。ここで、「希望を伝えること」と、「誰かにその事務を頼むこと」を分けて考える必要があります。
納骨についても同じように考えます。例えば、「私の遺骨は○○寺の先祖代々のお墓に納骨してください。」と遺言書に書いたとします。これによって本人の希望を家族へ伝えることはできます。しかし、実際に納骨するためには、
誰が寺院や墓地へ連絡するのか
誰が必要な手続を確認するのか
誰が遺骨を受け取るのか
誰が納骨の手配をするのか
必要な費用を誰が支払うのか
といった具体的な事務が発生します。つまり、「○○寺へ納骨してほしい」という希望と、「○○寺への納骨に必要な事務を妹Aに依頼する」ということは別の話です。そこで、後者について利用を検討できるのが死後事務委任契約です。

死後事務委任契約とは、簡単にいえば、自分が亡くなった後に必要となる事務を、生前に特定の人へ依頼しておく契約です。
例えば本人が妹に、私が亡くなった後、葬儀と納骨に必要な事務をお願いします。と依頼します。妹が、分かりました。引き受けます。と承諾します。そのうえで、
など、本人が必要とする事項について、誰に、何を、どこまで頼むのかを契約書で具体的に整理します。付言事項との最大の違いは、ここにあります。
付言事項は遺言者自身の意思として書くものです。例えば、「葬儀は家族葬にしてほしい」。と本人が記載します。これに対して、死後事務委任契約は契約です。本人が一人で、「妹Aに葬儀を任せる」。と紙に書いただけでは、Aとの契約が成立したことにはなりません。本人が、「お願いします」と依頼し、Aが、「引き受けます」と合意する必要があります。したがって、
付言事項 = 本人の意思・希望
死後事務委任契約 = 本人と受任者との合意
という違いがあります。
両者を整理すると、次のようになります。
| 遺言書の付言事項 | 死後事務委任契約 | |
|---|---|---|
| 主な目的 | 本人の思い・希望を伝える | 死後の事務を特定の人へ委任する |
| 基本的な性質 | 遺言書に記載する本人のメッセージ等 | 委任者と受任者との契約 |
| 相手の承諾 | 付言事項を書くためには不要 | 契約なので必要 |
| 葬儀の希望 | 記載できる | 葬儀に関する具体的事務を委任できる |
| 納骨の希望 | 記載できる | 納骨に関する具体的事務を委任できる |
| 法的な位置付け | 付言事項自体には通常、遺言事項としての法的拘束力はない | 当事者間の契約として効力を持つ |
| 委任範囲 | 事務を委任するものではない | 「誰に・何を・どこまで」を定める |
| 費用・報酬 | 通常、具体的な契約関係を作るものではない | 費用負担・立替え・報酬等を定めることができる |
この比較から分かるように、付言事項と死後事務委任契約は、同じ目的の書類を二種類用意したものではありません。そもそもの役割が違います。
ここでも混同しやすいものがあります。エンディングノートです。エンディングノートにも、
などを書くことがあります。しかし、一般的なエンディングノートに希望を書いたというだけで、遺言書と同じ法的効力が生じたり、特定の人との死後事務委任契約が成立したりするわけではありません。大まかに整理すると、
エンディングノート→ 自分の情報や希望を整理して伝える
遺言書の付言事項→ 遺言書の中で自分の思いや希望を伝える
死後事務委任契約→ 特定の相手に死亡後の事務を契約として依頼する
という違いがあります。重要なのは、「どの書類が一番強いか」ではなく、「何を実現したいのかによって使い分ける」ことです。
例えばAさんが、「葬儀はできるだけ簡素にしてほしい」「長年付き合いのあった友人にも連絡してほしい」「○○寺に納骨してほしい」と考えているとします。この場合、遺言書の付言事項には、
私の希望として、葬儀はできるだけ簡素にし、家族と親しい人だけで見送ってもらいたいと思っています。遺骨については○○寺への納骨を希望します。
などと本人の思いを残すことが考えられます。
一方、死後事務委任契約では、
などを具体的に整理します。つまり、
付言事項で「希望」を伝える
↓
死後事務委任契約で「その希望に関係する事務を誰に任せるのか」を決める
という組み合わせができます。

遺言書の付言事項と死後事務委任契約の違いを最も簡単に表すなら、「こうしてほしい」と、「あなたにお願いします」の違いです。
付言事項
「葬儀は家族だけで静かにしてほしい」という本人の希望を伝えます。
死後事務委任契約
「私が亡くなった後、葬儀に関する事務をあなたにお願いします」と、本人が特定の人へ事務を依頼し、その人が引き受けます。
そして、誰に・何を・どこまで頼むのかを契約書として整理します。したがって、
付言事項=本人の思い・希望を伝える
死後事務委任契約=死亡後の事務を特定の相手へ契約として委任する
という違いがあります。ただし、どちらか一方だけを選ばなければならないわけではありません。例えば、
付言事項で「どのようにしてほしいのか」を伝える
↓
死後事務委任契約で「誰がそのための事務を行うのか」を決める
という組み合わせもできます。
自分の死後について、「葬儀はこうしてほしい」「このお墓に納骨してほしい」という希望があるのであれば、次にもう一つ考えてみてください。「では、そのための手続を誰に頼むのでしょうか?」その人が決まっているのであれば、「よろしくお願いします」という口約束だけではなく、何を、どこまでお願いするのかを死後事務委任契約書として整理するという方法があります。
文案作成に特化した死後事務委任契約書作成サポートのご案内

当オフィスでは、家族・親族・知人など、すでに死後事務をお願いしたい相手がいる方について、本人の希望を整理し、それを「受任者へ依頼する具体的な事務」へ落とし込み、死後事務委任契約書として文書化するサポートをご検討いただけます。
また遺言書も作成する場合には、「遺言事項」「付言事項」「死後事務委任契約で定める事項」を整理し、それぞれの書類の役割が混同しないように文案を検討することが重要です。自分の希望をただ書き残すだけでよいのか。それとも、特定の人に実際の事務まで頼んでおきたいのか。この違いを考えることが、遺言書の付言事項と死後事務委任契約を適切に使い分ける第一歩です。
死後事務委任契約書ついて疑問点,不明点などあれば、まずはご相談ください。
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代表 行政書士 辻下仁雄
Profile
大学で応用数学を学び、システムエンジニアとしてIT関連企業に勤務。2017年行政書士事務所を開業し現在に至る。
申請取次行政書士 2級ファイナンシャルプランニング技能士